MGCってよく聞くけど、どんなレースなの?
一発勝負で代表が決まるって本当?
マラソン日本代表の話題でよく出てくる「MGC」、なんとなく聞いたことはあっても、実は詳しく知らないという人も多いのではないでしょうか。
MGC、「マラソングランドチャンピオンシップ」は、オリンピック代表を決める特別な一発勝負のレース。
2023年には、パリオリンピック男子マラソン代表の2人をこのレースで決定しました。
目次
パリオリンピック代表が決まる「MGC2023」はどんなレースだった?
男子マラソンのパリオリンピック代表2人を即決するMGC2023。
レースの概要と結果を解説し、一発勝負ならではの熱いドラマをお伝えします。
この章では、MGC2023の全体像を解説します。
MGC2023はパリオリンピックの代表2人を決めるレース
MGC2023は、パリオリンピックのマラソン代表3人のうち、2人を即時内定するための選考レースとして実施されました。
順位がすべてを決める一発勝負のルールで、タイムに関係なく2位までに入れば代表が決まるというシンプルな仕組みです。
この方式は、前回の東京オリンピックに向けたMGCと同様で、今回が2回目の開催となります。
勝てば代表が決まるという明快さから、選手にとっては大きなプレッシャーとなる一方、観る側にはわかりやすく、選考への納得感も得られやすい制度です。
レース当日の気象条件と序盤の流れ
MGC2023当日は、冷たい雨が降りしきる中でレースがスタート。
10月中旬としては気温が14.5℃と低く、選手にとっては体温調節の難しいコンディションとなりました。
そんな中、男子のレースは午前8時に号砲が鳴り、国立競技場を出発。序盤から注目を集めたのは、ベテランの川内優輝選手(AD損保)の積極的な走りでした。
これが130回目のフルマラソンとなる川内優輝選手は、経験に裏打ちされた判断力を活かし、スタート直後から単独で先頭を突き進む展開を選択します。
一方、他の有力選手たちは集団を形成し、慎重なペース配分で後方から様子をうかがう展開に。
雨の影響で足元の滑りやすさも懸念される中、各選手は焦らずレースを進めていきました。
独走する川内優輝選手に対して、後続集団は40秒以上の差を許す場面もあり、序盤はベテランの存在感が際立つ展開となりました。
35km過ぎに動いた勝負|小山直城がスパート
レースが大きく動いたのは35kmを過ぎたあたりでした。
先頭を走っていた川内優輝選手に対し、小山直城選手(Honda)、赤﨑暁選手(九電工)、大迫傑選手(Nike)、井上大仁選手(三菱重工)、堀尾謙介選手(九電工)、作田直也選手(JR東日本)といった有力選手たちが一斉に追いつき、先頭は7人の集団に。
雨で冷えた身体に加え、疲労も蓄積される時間帯でしたが、小山直城選手は39km手前で一気にスパートを仕掛けました。
小山直城選手はここまで無駄のない動きで集団の中に溶け込みながら走っていましたが、終盤で一気にギアを上げ、後続を引き離す展開に。
赤﨑暁選手、大迫傑選手、川内優輝選手の3選手は反応できず、小山直城選手の独走状態になりました。
赤﨑暁が2位に入りパリ代表決定、大迫傑は3位に
終盤の勝負は、国立競技場に戻ってからのトラック勝負に持ち込まれました。
先頭に立った小山直城選手は、2時間8分57秒でゴールテープを切り、堂々の優勝。
パリオリンピック日本代表の座を自らの手でつかみ取りました。
続く2位争いは、赤﨑暁選手と大迫傑選手のデッドヒート。
競技場内のトラックに入ってからも2人の距離は接近しており、観客の緊張感も高まる中、先にトラックに入った赤﨑暁選手がそのままペースを落とすことなく走り切り、2時間9分6秒でフィニッシュ。
見事、2位でのゴールとなり、小山直城選手に続いてパリ五輪代表に内定しました。
大迫傑選手は必死に追いすがりましたが、わずか5秒届かず、2時間9分11秒で3位に。
再びMGCで代表内定を逃す形となり、勝負の厳しさが浮き彫りとなる結末となりました。
MGCがもたらした影響とマラソン界の変化
MGCは、代表選考をめぐる制度そのものにも大きなインパクトを与えました。
レースでの勝負の仕方や、選手の評価基準も少しずつ変わりつつあります。
この章では、MGCという制度がマラソン界にもたらした影響と、その背景にある考え方の変化について解説します。
一発勝負の選考がもたらす緊張感と公平性
MGCが注目される理由のひとつは、オリンピック代表が「一発勝負」で決まるという明快なルールにあります。
複数の大会で記録を積み重ねる従来の方式とは異なり、MGCではその日一度きりのレースで、上位2名が即座に代表に内定します。
この方式の特徴は、本番にピークを合わせられた選手にとって極めて有利であるという点です。
年間を通じた安定感や実績よりも、当日のパフォーマンスが最優先されるため、準備が万全だった選手は大きなチャンスを手にできます。
その一方で、レース当日に体調を崩したり、アクシデントに見舞われたりすれば、どれだけ過去に好成績を残していても代表の座を逃すリスクがあります。
つまり、勝負はすべて“その日”に集約されており、ある意味で残酷とも言える制度です。
公平性という点では、すべての選手に同じ舞台・同じ条件が与えられるという意味で平等ですが、長期的な実力や実績が反映されづらいことに疑問を持つ声もあります。
それでも、観る側にとっては「誰が代表になるのか」が一目でわかるわかりやすさと、最後まで結果が読めない緊張感が魅力となり、レースを大いに盛り上げる要素となっています。
勝負を決めた“終盤スパート”こそMGCらしさの象徴
MGC2023では、終盤に入ってからのスパート合戦が勝負を大きく左右しました。
特に39km手前で小山直城選手が仕掛けたスパートは、勝負の鍵を握る場面であり、MGCという大会の性質を象徴するシーンでもありました。
この時点では川内優輝選手を中心とした7人の先頭集団が形成されており、誰が抜け出すか分からない混戦状態。
そんな中、小山直城選手は一瞬の判断でスパートを開始し、後続を一気に突き放しました。
MGCは順位がすべてを決める一発勝負のレースです。
タイムや実績よりも、その日その場所でどれだけ強さを発揮できるかが問われます。
だからこそ、終盤の一瞬の決断が大きな意味を持ち、スパートのタイミングや走りの駆け引きがレースの命運を分けます。
追いすがる赤﨑暁選手と大迫傑選手も、それぞれのタイミングでギアを上げましたが、小山直城選手の判断と体力、そして勝負強さが一歩抜け出す形となりました。
このように、MGCでは後半勝負に強い選手が光る傾向にあり、まさに“最後まで何が起こるか分からない”展開が続くのが特徴です。
実力者がリズムを崩して脱落する一方、粘り強く走った選手が代表の座を手にする場面は、まさにMGCの醍醐味といえるでしょう。
観る側にとっても、順位ひとつで命運が変わるこの緊張感は、マラソンという競技を一層ドラマチックに映し出してくれます。
代表選考におけるMGCの役割はどう変化してきたのか
MGCは、東京オリンピックに向けた新しい代表選考制度として始まり、パリオリンピックでも同じ方式が採用されました。
これまでに男女とも入賞者を出すなど、再現性のある選手や勢いのある選手を選べる制度として成果を上げてきました。
ただ、世界のトップと戦うには、もっとスピードが必要という課題も見えてきました。
そこでロサンゼルスオリンピックに向けては、「MGCファストパス」や「MGCファイナルチャレンジ」といった新たな選考方法が加わり、記録や勢いも評価に取り入れる形に変わってきています。
今後もMGCは選考の軸になりますが、「勝負強さ」だけでなく「速さ」や「成長力」といった面も含めた、多角的な代表選びが行われていきます。
MGC2023は成功だったのか?関係者が語る選考レースの評価
MGC2023の結果を受けて、日本陸連の関係者はこの選考制度をどのように評価したのでしょうか。
今回は、瀬古利彦さんや高岡寿成さんの発言をもとに、MGCの課題や価値、そして日本マラソン界の現状について振り返ります。
この章では、MGCに対する評価の声を紹介します。
瀬古利彦さんが語る“MGCと記録挑戦の難しさ”
日本陸連の瀬古利彦ロードランニングコミッションリーダーは、MGC2023および選考全体を総括する中で、MGCを通じて選手たちが全力でオリンピックを目指したことをまず評価しました。
その一方で、MGC後の記録挑戦については、別の課題があったと指摘しています。
福岡、大阪、東京と続いた3つの選考レースでは、いずれの大会でも選手たちが2時間5分50秒以内を出さなければならないという強いプレッシャーを感じていた様子が見受けられました。
瀬古利彦さんは、「記録を狙うと力が入って、思うように走れない」と語り、2月の大阪マラソンや3月の東京マラソンで代表入りを狙っていた選手たちは、全員が力みすぎてしまい、本来の走りができなかったのではないかと分析しています。
記録を狙うレースでは、心と体のバランスが崩れることで、調整が難しくなることも少なくありません。
MGCという一発勝負とは違い、明確なタイム目標が課せられる選考には、また別の難しさがあることが浮き彫りになりました。
高岡寿成さんが語る「代表3人への信頼」と「MGCの価値」
日本陸連の高岡寿成シニアディレクターは、MGC2023の選考について「誰を代表にしても自信を持って送り出せる」と語り、特に3位となった大迫傑選手にも信頼を寄せている様子を見せました。
本来であれば、最後の1枠は日本陸連が設定した2時間5分50秒以内という高水準のタイムを出した選手から選びたかったという意図もにじませながらも、結果的にその記録を突破した選手は現れませんでした。
その中で、大迫傑選手がMGC2023で見せた安定した走りと、2位の赤﨑暁選手との差がごくわずかだったことから、「代表として十分にふさわしい」と判断されたことがうかがえます。
また、高岡寿成さんはMGCというレースそのものの意義についても評価しています。
冷たい雨が降りしきる悪天候のなかで、選ばれた3選手が最後まで力強く走り抜いた姿を挙げ、「精神的な強さが本番につながる」と語りました。
勝負所で力を発揮できる選手こそ、国際大会でも結果を残せるという考えのもと、単なる記録ではなく、「厳しい状況で勝ち切る力」や「レースの流れに対応する力」を重視していることが伝わってきます。
こうした視点からも、今回選ばれた3人の代表は安心して送り出せる存在だと捉えているようです。
「狙うことの難しさ」が見えた今大会と、浮かび上がった課題
東京マラソン2024では、西山雄介選手が自己ベストとなる2時間6分31秒でフィニッシュし、日本人トップに輝きました。
しかし、日本陸連が設定した「2時間5分50秒以内」という代表選考の条件には、わずか41秒届かず、涙を流す結果となりました。
この姿に対し、高岡寿成さんは「五輪を目指すプレッシャーがあったと思う」と語り、記録への執着が精神的な重圧につながっていた可能性を示唆しています。
また、高岡寿成さんは、男子マラソン界の「再現性の難しさ」にも言及しました。
今回の選考レースでは、初マラソンで学生の平林清澄選手が大阪マラソン2024を制するなど、新たな力の台頭が見られる一方で、継続して安定した成績を残すことの難しさが浮き彫りになりました。
狙って勝つ、記録を出すというプレッシャーの中で実力を発揮することは容易ではなく、そこを乗り越えたときに「本当に強い選手」が生まれると語っています。
今回の選考を通じて、日本マラソン界が直面している課題と、乗り越えるべき壁がより明確になったといえるでしょう。
まとめ:一発勝負のMGCで決まった、男子マラソン代表3人の選考劇
- 小山直城選手と赤﨑暁選手がMGCで代表内定
- 大迫傑選手は3位に入り、3枠目で代表に選出
- 一発勝負のMGCがマラソン界に大きな影響を与えた
MGC2023では、小山直城選手と赤﨑暁選手がパリオリンピック男子マラソン代表に内定し、3位となった大迫傑選手も後の選考で代表に選ばれました。
順位だけで代表が決まる一発勝負のレースは、選手たちに大きなプレッシャーを与える一方で、観る側にとっては分かりやすく緊張感のある選考方式として注目を集めました。
MGCは今後も代表選考の軸として続いていく見込みであり、日本マラソン界における制度のあり方や選手の戦い方にも少なからぬ変化をもたらしています。